しまねこかぶり

(一応)理系女子大生の日記です。研究室に通っています。活字と2次元が好き。マイペースで人付き合いはちょっと苦手なタイプ

悲しみのツボ

何をやってもうまくいかない日、というのは、どうしたって月に何度かはあるものだ。私にも、水曜日にそれが巡ってきた。

 

うまくいかないことの連鎖は、実験の失敗から始まった。月・火と丸々二日間かけた実験の結果を午前中に確認すると、ほとんど失敗していたことが分かり、最初からやり直す羽目になった。

 

昼は自転車に空気を入ようとしたが、空気入れが壊れていて余計に空気が抜け、タイヤがべこべこに、手は真っ黒になった。人と会う約束があったため、自転車を諦めてバスで駅まで往復540円かけて行ったが、約束はすっぽかされた。

 

研究室に戻り、実験を再開した頃には、随分くたびれてしまっていた。だが、私にはもう一つやらなくてはいけないことがあった。夜からのアルバイトの準備だ。

 

私のアルバイトは、個別指導塾の講師。その日は普段やらない高校の化学を教える予定だったから絶対に予習が必要で、実験の合間にやるつもりでいた。ところが、その日はほとんど手を休める暇がなく、満足に予習できないままバイトの時間は刻一刻と迫っていた。

 

研究室を出なければならない時間が近づいても、実験の手を止めることはできなかった。私はパニックを起こしかけていた。実験台に化学のプリントを置いて、脇見しながら試薬を分注した。

 

やっと作業が終わり、慌てて帰り支度をしていると、私の様子を見ていた上司に一言釘を刺された。「ただでさえ失敗してるんだから、実験中に他のことしてるのは、ちょっと......ねえ?」

 

ごめんなさい、バイトがあって。少しおどけて泣き真似をしながらそう返して、小走りで研究室を出て行った。上司の、ちょっと困ったような愛想笑いが耳にこびりついていた。研究棟の出口へと急ぎながら、泣き真似はいつしか本物に変わっていた。

 

私、頑張ってるのになぁ。毎日きちんと時間通りに来ているし、追加のバイトだって無理して引き受けた。それで報われないどころか、皮肉を言われてしまった。

 

いや、本当は上司が正しいのだ。現に私は実験で一度失敗しているのだし、バイトの予習だって昨晩しておくべきだった。私のことを気にかけて、努めて柔らかく注意してくれているのだから、素直に受け止めないといけないのに...。

 

しかしなぜだろう、この人はいつも、私の悲しみのツボを的確に押してくるのだ。失敗続きで弱っているときにぐさっとくることを言われて、私は何度もトイレに籠って泣いた。目に見えて気遣わしげな言い方と作り笑いがそうさせるのか、しかし、毎回言っていることは至って正しいから、それが自己嫌悪を呼んで私を余計に悲しませる。

 

自転車が快適に進むのが、せめてもの救いだった。研究室に戻る前に自転車屋に寄って、空気を入れてもらったのだ。私はバイト先に向かって、全速力で自転車を漕いだ。こんな些細なことで深く傷ついてしまうのは、きっと私が弱いからだ。強くなれ。そう念じながら、ペダルを思いきり踏み込んだ。