しまねこかぶり

理系女子大生の日記です。研究室に通っています。活字と音楽と2次元が好き。

眠れない夜

夜。なんだかとてつもない不安に苛まれて一向に寝付けない私は、布団から抜け出して廊下に座り込み、一人しくしくと泣いていた。気が付いた母親が廊下に出てきて、どうしたん、と背中をさすってくれた。小学校に上がる前の、朧げな記憶。

 

 

入って間もない小学校の図書館には、好きな本があった。児童文学の『眠れない子』。主人公の男の子は、眠れない夜が来ると、真夜中の街へ一人散歩に出る。出会ったのは「光る家」と、そこで楽しく過ごす人たち......。

 

私も、光る家を見つけられるかな。でも、一人で夜の街に出るのはちょっと怖いな。眠れない夜が来ると、布団の中で考えていた。

 

 

高学年の頃は母親の趣味で、枕元でクラシック音楽のカセットテープをラジカセで流しながら眠るのが日課だった。

 

私にとってそのカセットテープは、癒しである以上に恐怖だった。片面の再生時間は、せいぜい一時間だったと思う。寝付けないままカセットを聴き続け、ついに再生が終わって突然静寂が訪れるのが、私は怖くて仕方がなかった。それまでゆったりと音楽に包まれていたのが、いきなり荒野に放り出されるような感覚だった。

 

一曲を聴き終えるたびに、ああ早く眠らなきゃ、あの静寂がきてしまう、と焦りが募る。しかし、焦ると余計に眠れなくなって静寂に近づいた。今でもあのカセットテープに入っていた曲が聴こえると、あの頃の不安な気持ちが蘇る。

 

 

10年以上経った。一人泣いている私に気付いてくれた母親は、ここにはいない。『眠れない子』をアマゾンで調べたら、現在は入手困難のようだった。カセットテープはもう使わないし、そもそもアパートの壁が薄いので、眠る前に音楽は流せない。

 

それでも眠れない夜は訪れる。心も体も重くて布団にどんどん沈んでいくのに、意識だけは冴えたまま沈んでくれない。脳内には一つの不安から、飛び火して新たな不安が次々に生まれ、ごちゃ混ぜになって蠢いている。

 

今の私の恐怖は、カセットテープの終わりではなくて新聞配達の音。午前3時過ぎになるといつも、玄関先からカサリ、と朝刊が郵便受けに入れられる音が聞こえる。静寂な部屋にその音はやけに響いて、ああ、もうそんな時間なのねと絶望する。

 

ある日の夜、今まで付き合ってきた眠れない夜の原因を思い出そうとしてみた。私はなぜ、深夜の廊下に出て一人泣いていたのか。それほど大きくて重たい何かがあったはずなのに、しかし、私はちっとも思い出せなかった。

だから、今闘っている不安だって、きっと後から振り返れば取るに足らないものなのよ。自分に言い聞かせてみたけれど、その後もしばらくの間私は布団の中、時計の秒針の音を聞いていた。